今からたぶん20年以上前、僕が30歳ぐらいのとき、僕は某公共放送に勤めていたのだが、あるとき渋谷で労働組合の集会に参加したときがあった。そのときは、戦争について皆で討論する会で、たしか30人ぐらいの若手が集められ、組合専任の幹部数名が議事進行して会を開いていた。

実は今など比較にならないほど食えなかった若い僕は、くだらねーなー、と思いつつも上の空で参加していた。

集会はまず広島で行われた原爆記念式典に参加した人たちの報告で始まった。そしてその中で、参加者からこんなエピソードが紹介された。イベントの中で、広島在住の牧師が、「広島に落ちた原爆は、それが起こるまでになされた戦争において、日本がアジア諸国に対して行ってきた非道な行いの罪悪に対する神の罰なのです」、と言ったというのだ。

それを紹介した若手はたしか女性だったが、かなり神妙にその報告をしていたような覚えがある。

まあ、そこまではいい。そのあと、式典にまつわるさらにいくつかの報告があり、さて、組合幹部が最後に一人ずつ意見を言ってください、と若手30人に指示し、座った順にひとこと意見を言うことになった。

ひとりひとりしゃべるのだが、みんな奇妙に神妙で、しゅんと意気消沈していて、下手なこといえないぞという雰囲気で、ぽつりぽつりみな戦争に対する反省心のとりこになったかのように言葉を選びながら、しかも、どいつもこいつも版で押したように「戦争の恐ろしさについて考えさせられました」というセリフを言うのである。少し元気のいいやつも戦争の罪過について神妙に憤った風なことを言う。それにしても、みな、いろいろ「気付かされたり」、「考えさせられたり」している。

そのとき僕はちょうど真ん中へんに座っていたのだけど、順番が回ってくる間、それらの言葉を聞いてむらむらと腹が立ってきて、それで自分の番になった。

たしか口を開いた言葉が「いろいろみなの言うことを聞いてきましたが、日本人はなぜこうもみな反省好きなんですか?」だった。そのあと、怒りに任せて、「アジアの国が日本を憎んでいる。なら、なぜ日本人は原爆を落として日本人を虫けらのように一掃した当のアメリカを憎まないのですか、おかしいじゃないですか?」などなど色々口走った覚えがある。

意見が一巡して、最後に議長がコメントをしたが、その中で僕を指差して、世の中にはいろいろな考え方をする人がいるということがわかって興味深かった、有意義な会だったかと思います、みたいに言って会を締めた。

さて、僕は足早に部屋を出て、真昼間の放送センターの裏の駐車場を斜めに横切りながら、それでもまったく怒りが収まらず、心臓がドクドクと猛り狂って口から飛び出そうなほどひどくなり、さすがにヤバイと思い、怒るのを意識的に抑えて、それでも倒れずに歩き、しばらくしてなんとか元に戻った。

あれ、まだ若かったから倒れなかったけど、今ああなったら確実にその場で倒れていただろうと思う。生涯であんな風に心臓が反応したのは初めてだったのでよく覚えている。てことは、生涯で自分がもっとも腹を立てたのが、あのときだったらしい。

その後どうしたか覚えてないが、たぶん行きつけの飲み屋にしけこんで酒を飲んでさらに管を巻いていたであろう。

当時の自分は第一級の世間知らずでもあり、それでも堂々と過激だった。怖いものなしの阿呆である。

以上、当時まだ自分が若かった頃の労働組合がらみの出来事と、当時の自分の考え方などが以下に書いてあるので暇な方、どうぞ。

http://hayashimasaki.net/zatubun/housoumonitor.html