香港B級情報
香港渡航11回になりますが、僕にとって香港の魅力は雑然とした汚い場所にこそあり
ます。いわゆるB級の香港を思いつくままに紹介しましょう。
市場通り
チム・シャ・ツイの広東ロードは高級ホテルが立ち並ぶモダンな通りだが、これを
そのまま真っ直ぐ油麻地そして旺角へと歩いてゆくと延々と続く市場通りとなる。
ここは観光コースから外れているので、回りは皆香港現地人である。歩いて行くと、
食料品、金物、食器、機械などの市場が繰り返し現われ、いつ終わることなく続い
ている。
食べ物
野菜
ざるの上に並べられた野菜類では特に青菜の種類の多さが目を引く。
豚、牛肉
肉屋の店頭の光景は皆ほとんど同じである。鋼鉄の鉤に掛けられた肉や
内臓が所狭しと並んでいる。店の奥には屠殺されて内臓を抜かれた豚や
牛が折り重なっている。店頭ではグロテスクな内臓類が目につく。すな
わち、鈴なりになってぶら下がる僅かに青味がかった白い肺臓、薄茶色
の腎臓、褐色の肝臓、赤茶色の心臓、真白な胃袋、だらりとぶら下がる
緑灰色をした大腸、串刺しになっている肌色の睾丸、赤い血管に網の目
のように覆われたピンク色の脳といったところか。肉類は、肋肉、腿肉、
フィレ肉など部位別の塊になって鉤にぶら下がっている。それらを客の
注文に応じて店頭に据え付けの俎板の上で切り分けて売る。俎板は黒灰
色に変色していて、恐らく毎日毎日肉汁や血を吸い込んであらゆる雑菌
の温床になっているに違いない。店頭の強烈な、ほとんど刺激臭と言っ
てもよいほどの悪臭はこの俎板が発しているらしい
鶏
鶏肉類は鶏専門店で売られるのが一般的である。天井まで積み重ねられ
た木の篭にいろいろな種類のにわとりが詰め込んである。客はこれを見
て選び、そのまま買って行く、あるいはその場で卸してもらう。小刀で
首を切り逆さに吊るして血を抜く。このときの血は取って置き、塩など
を加えて固め、血豆腐という茶色の豆腐状のものに仕上げ、麺に乗せる
などして食べる。血を抜いた鶏は通常どおりぬるま湯につけて羽をむし
る。中国料理では鶏は頭を付けて上卓するならわしなので頭は落とさな
い。にわとりの他、こんな鳥を本当に食べるのかと訝られるような、啄
木鳥などの野鳥のたぐいを売っている所もある。
亀
亀は通常のもの、すっぽんなどが平たい水槽に入れられて売っている。
水槽の真ん中に小腕を置き、細長く白い亀の卵を入れ、一緒に売ってい
るときもある。自分の卵と一緒に売られている亀は何となくあわれを誘
うが彼らはお構いなしである。首を落とし、甲羅をばりばり剥がしてさ
ばく。鶏と同様頭付きである。
調味料その他食料品
日本でいう乾物屋がその他の食材、調味料を扱っている。芥子菜漬け、
ザーサイなどの漬け物、ミソのたぐい、おでんの練り物、油揚げのたぐ
い、乾燥物、その他非常に種類が多く、列挙できない。ほとんど常温放
置であり、気温の高い香港ではかなり早く変質するのではと思われるが、
これまたあまり気にしていないようである。
魚市場
水揚げされたばかりの魚貝類を売る通りがあり、ここはいわゆる香港の
一般向け魚市場である。雰囲気は日本のそれとかなり似通っている。た
だ一度、差し渡し30cmはある巨大な兜蟹を見たことがある。裏返し
で放置されており虫の息であった。ときどき宙を掴むようにあのクモの
ような足をゆっくりと動かす様子は気持ち悪いの一言である。細部に渡
って観察したが、まさにあのギーガーのエイリアンそのものであった。
それから日本のものの約2倍はある巨大なシャコも多少気持ち悪い。
金物
鉄物
小さな鉄くずから大きな重機まで、いわゆる金物を扱う市場がある。道
端では、何に使えるのか分からないような大小様々なスプリング、板バ
ネ、エンジンの解体部品、鉄パイプ、各種工具などなどが乱雑に積み重
なって売られている。金物の好きな人ならいくら見ていても飽きないだ
ろう。店舗を構えたちゃんとした店では、エンジンの組立をしていたり、
電動モーターのコイルを手巻きしていたり、なかなか面白い光景が見ら
れる。
電気がらくた
テレビ、ラジオ、カセット、パソコンなどの電気製品のがらくたを扱う
店も結構ある。例によって、用途不明の基板、スイッチ、スピーカー、
CRTなどが積み重なって売られている。店の人はたいてい半田ごてを
持って何やら基板をいじくっている。アジアの電気の人は、回路図など
なくても、テスターひとつで経験と勘によって修理してしまったり、あ
るいは別々の製品から取ってきた基板を組み合わせてテレビを作ってし
まったりする。この手の名人芸はかつての日本の電気屋のおじさんにも
見られたが、今や姿を消しつつある。ここ香港にはまだたくさんいるの
である。
道端売り
市場通りは通常店が三重に並んでいる。すなわち、道路の両側の建物の中に
店舗を構えた店、そしてその内側の仮設店舗の店、そして残る道路の中央で
木箱を並べたりして売る人々である。この最後の道端売りにもいろいろなも
のがある。その中でも生きた食材をその場で卸して売るものが目を引く。
蛙
網の中に比較的小振りの蛙が折り重なっている。注文された個数だけ取
り出し、ロウ引きの袋に入れる。次に左手を袋に突っ込み蛙を掴みだし、
指の間からそれぞれ頭が出るような形とし、道に敷いた段ボールの上で
中華包丁で頭をざくっざくっと落とし横に放り投げる。頭のない蛙はま
だ生きており、力無くその辺を歩いている。一匹ずつ捕まえ人差し指を
皮の下に突っ込み皮を一気に剥き、ビニール袋に入れて
客に渡す。
蛇
金網で作った四角い篭に幾つかの種類の蛇が折り重なっている。注文さ
れるとこれを取り出し、頭を掴み、小さなやっとこで頭を砕く。この時
のかりっという音にはなかなか耐えられないものがある。次に小刀で中
程に隠れている青い胆のうを取り出し、小さな透明のびんに入れる。最
後に皮を一気に剥き、ビニール袋に入れて胆のうのビンと一緒に客に渡
す。
魚
魚の頭の落とし方が日本と異なっている。日本では出刃で直角に落とし
てしまうが、ここではエラに沿って包丁を入れて切り落とす。こうして
落とされた頭は丁度開いた二枚貝のような形となる。しばらく生きてい
る頭は、エラを動かそうとするので、貝が閉じたり開いたりする様子に
似たものになる。この光景もかなり気持ちが悪い。
鰻
鰻の卸し方も日本と違い面白い。5、6匹をまな板に乗せ、尾の方に目
打ちを刺して、放射状に広がった鰻をひとつずつ一気に卸して行く。
うずら
小さな金網の篭に入れたうずらもよく見かける。5、6羽を取り出し、
細い紐で首を一緒にくくり、金網のはじにひっかける。そうするとうず
らはばたばたと暴れるので、自然と首が締まってゆき死んでしまう。こ
れを段ボールの上に乗せ、包丁で羽をむしり、売る。
金網屋台
市場通りを歩いていると、金網で囲まれた広いスペースに何店かの仮設の料
理店が集合してできた、いわゆる日本でいう屋台村のようなところがある。
テーブルと椅子がぎっしりと並んでいて店の区分はなく、そこらを歩いてい
る店の人に適当に料理を注文する。
ここは建物の中ではなく調理場は仮設なので、うまい場所に席を確保すれば
調理している様が見物できる。古びた煉瓦を竃の形に組立て、そこにコーク
スを燃し、物凄い勢いで吹き上げる火の上に真黒の中華鍋を置き、延々と料
理を作り続けている。いくら見ても見飽きない魅力的な光景である。
人間達
おじさんたち
香港における人間観察として何と言っても面白いのが一般のおじさん達で
あろう。市場通り周辺を歩くおじさん達の顔の素晴らしいバリエーション
は、まさにこの無数に細分化されたあらゆる物が秩序とも無秩序ともつか
ぬ様子で共存している香港の街と丁度引き合っているのである。
白痴
肉や野菜や道に散らばるごみ、そして買い物客と売り子でごったがえした
市場通りの四つ辻に、ダウン症と思われる青年が木の椅子に腰掛けている
のを見たことがある。彼はずっと一方向を向いたまま、ときどき意味もな
くへらへらと笑っていたのだが、この混乱した市場通りを座ったまま泰然
と見渡しているこの人間こそ、この混乱の本当の意味を知っているのでは
ないかと思わせるものがあった。常識で計れないものを見て、その隠され
た意味を知るには、こちらも少し頭を白痴のようにする必要がある。
浮浪者
浮浪者や物乞いは思ったより少ないという印象である。もちろんいくらか
は居るが、たいてい老人か盲人である。ただ、いつだったかかなりひどい
光景を一日のうちに続けて見たことがある。ひとりは小さな年寄りに近い
おばさんの浮浪者で、割ときれいな人通りの多い通りにごみのようなもの
と一緒に座って通り過ぎる人達になにやら大声をあげていたのだが、いき
なり横を向くと真っ赤な鮮血をしこたま吐いたのである。顔は土色をして
おり、吐いたあとも何やら叫んでいた。もうひとりは男で、これも人通り
の多い道で座っているのだが、何か痙攣しているかのように頭を上下に振
っている。剥きだしの裸足の脚は、片方は数カ所に壊疽を起こしておりか
なりひどく、もう一方の脚は一面に黒い斑点が出来ており、かなり重傷で
あった。いずれもかなりショッキングな光景であった。
露天市の夜
香港の夜の露天市としては、油麻地の男人街、旺角の女人街が有名でありどのガ
イドブックにも載っているが、ほぼ観光客向けの場所であり、香港のあの混乱し
た市場通りを見慣れた目から見ると、安全な、平凡な場所に映る。それに対し、
特に興味深いのは男人街のはずれを抜けたところにある、油麻地の天后廟前の広
場を取り囲む夜市であろう。
薬売り
薬はもちろん漢方薬で、皮膚病の薬がよく目につく。皮膚病症例として露
骨なアップのカラー写真が並んでおり、結構気持ちが悪い。中国語は分か
らないが、並んでいる漢字には「癬」、「痒」、「壊」など怪しげなのが
目に付き、いかがわしさを醸し出している。それから男性の精力剤なども
あり、道端で大声をあげて説明する男を、むすっとしたおじさん達が無言
で取り囲んでいる様子はなかなか見物である。
道端手術
薬売りと同時に、道端で怪しげなパフォーマンスもやっている。手術とい
ってもだいそれたものはさすがにできない。僕が見たのは魚の目の手術で
あった。体のでかい血の気の多そうな男の足にできた魚の目になにやら薬
を塗り付けたのち、小刀で木でも彫っているような感じで削り取っている。
アセチレン燈の光の中で繰り広げられるこのいかにも不衛生な手術はかな
り幻想的なものである。
踊りと唄
10時過ぎの遅い時間になると、幅の広い歩道に縄を渡して囲いを作り、
この中で中国の唄と踊りのパフォーマンスが始まる。中国伝統楽器、衣装
を付けた踊り手、そしてパイプ椅子を並べた客席といった舞台設定の中で、
濃厚な中国伝統芸能が始まる。裸電球の光の中で、変哲ないおじさん達が
じっと聞き入っている様子は、夢でも見ているような錯覚に陥る光景であ
る。
小鳥占い
小さな鳥篭の前にたくさんのカードが並べてあり、篭から出てきた小鳥が
一枚のカードをくちばしで引き出す。これをもとに占いを始めるというも
の。小鳥は仕事を終えると餌をもらい、おとなしく篭の中へ戻って行く。
小鳥好きな香港人らしい趣向である。
手相、人相見
手相見、人相見は日本とほぼ同じである。
屋台食い物
ここ香港ではいかなる場所であっても喰い物は欠かせない。麺や粥、焼き
鳥風の串刺し肉、おでんの屋台などが並ぶ。日本の屋台と比べ内容はかな
り本格的である。みな酒はあまり飲まない。
その他
バードストリート
市場通りを旺角のあたりまで来ると、いかにも庶民然とした、気難しそう
な顔をした中年のおじさん達が、小鳥を入れた小さな鳥籠をやたらと下げ
て歩いている地区がある。これは実はバードストリートと呼ばれる、愛玩
用の鳥を売る店の集まった通りが近い印なのである。バードストリートは
人が二、三人すれ違うといっぱいになってしまうような覆いの被った狭い
路地で、両側に小鳥、鳥籠、鳥の餌を売る店がぎっしり並んでいる。おび
ただしい数の小鳥のかん高い鳴き声と、餌として売られる大小様々のバッ
タの羽ずれの音と、無言で這い回るみみずの類と、鳥籠に塗るうるしの臭
いと、籠に取付ける様々なアクセサリーを削る電動彫刻刀のうなり声と、
広東語の間断ない甲高いしゃべり声で、歩いていると気が遠くなりそうに
なる路地である。
キャットストリート
キャットストリートは香港島の山の中腹にある細い道で、両側に高級そう
な骨董品屋が並び、道端に立ち並ぶ露店では小物やがらくたのたぐいを売
っている。欧米人に人気があるところなのか、白人のカップルが多く、確
かにエキゾチックなアクセサリー、置物などの宝庫であり、彼ら向きかも
しれない。僕が面白かったのは歯医者で使うペンチやひっかき棒などの中
古器具をたくさん売っていたことぐらいだが。天気がよいと道のはずれの
壊れかけたような家々の屋根の上の至る所で猫が寝ている。のんびりした
いいところである。香港島は猫が多く、いちように小振りで痩せており、
節が目立ち、すらっとして高貴な顔だちをしている。警戒心はあまりなく
超然とした感じである。ちなみに香港の若い女性はファッショナブルでみ
なきれいだが、その体型がこの香港猫と不思議な一致を見せている。
棺桶売り
棺桶の問屋街へ行くと、棺桶を作っているところが見れる。棺桶の形は日
本の四角いものと異なり、大きな丸太をそのまま削って作ったような、曲
線で囲まれた独特の形をしている。
ジェット機見物
九龍城砦は数年前に取り壊され今は公園になっているが、公園から九龍城
の街を抜けて行くと啓徳空港がある。この九龍城の街はちょうどジェット
機の進入経路と重なっている。空港の手前にほどほどの広さの公園がある
のだが、ここに、空港を背にして座って街の方を眺めていると、いきなり
ジェット機がまるで自分に向かって突っ込んでくるように現れ、頭のすぐ
上を物凄い音をたてて通り過ぎて行く。この迫力は相当のもので、結構病
みつきになる。この前行ったときは、白人のあんちゃんが同じようにジェ
ット機を眺めながらぼっとしており、皆似たり寄ったりである。
蛇問屋
香港島の上環のあたりに蛇問屋が集まった街がある。香港では蛇の季節は
冬であり、夏場はたいてい店を閉めている。各店では金網の篭を積み上げ
蛇が折り重なって動いている。問屋として商品を卸す他、店頭では、蛇の
スープや胆のうを溶かし込んだ焼酎などを売っており、道行く人が立ち寄
って丸いすに座りスープを飲みながら雑談していたりする。蛇のほか、ト
カゲのようなイモリのような爬虫類を売っていたりもする。
塩魚問屋
香港島の上環のはずれあたりの道に、ひたすら乾物屋が並んだところがあ
る。広東では、中位の大きさの魚を内蔵と共に塩漬けにして発酵させた鹹
魚と呼ばれる食品がある。日本でいえばくさやにあたるのだろう、かなり
臭いが、蒸して柔らかくした後炒飯などの料理に入れると実に美味である。
乾物屋の店頭はこの塩魚の臭いで充満しており、なかなか良いところであ
る。乾物が好きな人(なんかいないか)なら飽きないだろう。