安永のころ、こんこん坊という 有名な乞食があったという。 これは坊主であるが、出っ歯で 口がとがっているのが 狐に似ていると 皆がこんこん坊とはやし立てたが、 自分からあだ名を利用して、 物乞いをしたそうだ。
夏になると、江戸の町の どこへ行っても、白玉売りの 「しゃっこい しゃっこい」 という声が 聞こえないところはない。 もう一つはところてん売り。 これも白玉売りについで夏のもので 大繁盛だ。 「ところてんや かんてんや」 と言って売り歩く。
千手観音の像を背負って、 手に持ったカネを鳴らし歩き お賽銭をもらう、という 一種の物もらいである。 今の子供たちは、背中合わせに 背負うことを「千手観音」というのは ここから来ている。 これは六十六部の巡礼者の ようなものである。
「納豆 納豆 永井町醤油のもろみ 新菜漬け 新菜漬け」 納豆は、湯島台に製造している問屋がある。 もし、納豆を売りたいと思う者がいたら その問屋へ行って依頼すれば道具一式を貸してくれることになっている。 納豆を作る大豆の原料は、白川大豆といって武州の赤羽でできるものが いちばん品質がいいと言われている。 他のものは風味がひどく悪いそうだ。
アサガオ売りは、夏の終わりから秋にかけて、毎朝 「アサガオや アサガオや」 と言って、町中を売り歩く者である。 アサガオは、入谷で栽培されるのがいちばんよいとされる。 毎年毎年、変わった花を生み出して これに、それなりの名前を付けて 売ることで繁盛するという。