昔のサラリーマンの窓際族は、まだまだ緩かったから、のほほんとしてて、それなりに悠々感があったよね。僕も三十年ぐらい前にオフィスにいるそういう人を何人も見たけど、パソコンの前で、いつも将棋ゲームやってたり、人差し指だけでキーボードをぽちぽち押しながら自分史書いてたり、のんびりとしたもんだった。
いまのブラックな大企業の現場でのリストラ予備軍は、デスクだけはかろうじて与えられるけど、パソコンなどコンピュータ無し、備品も無し、携帯も使用禁止、ってところで干されるんだ、ってどこかで聞いて、いたたまれなくなった。ひどいところはデスクもなく、何人かでたこ部屋に入れられて、9時から5時まで時間を潰すんだってね。
そんなことを聞いてしまうと、あるとき発狂して無差別殺人する人が出てもなんにも不思議じゃない気がしてしまうな。
昨晩に夢でねえ、そういう人をよくよく見たの。へんなさびれた路地にある古いビルの2階のオフィスの大部屋で、3人ぐらいの40代ぐらいの人が、仕事がまったくないまま出社してて、働いてる他の社員の中、ぽつぽつとデスクの前に座って、なんにもしてないの。なんにもすることがない人って、なにをしてるのかな、って、オレ、ずっと観察してた。
彼ら、机の前には座ってるけど、机に向かってはおらず、中途半端に横を向いていて、じっとしてるんだけど、なんだか少し困ったような表情をして、ときどき姿勢を変えているだけだった。並んでいる二人もいたんだけど、お互い向いてる方向が違ってて、もう、同じ境遇が長すぎて、雑談をするネタも尽きた、って風をしていた。
実はその夢、そのオフィスにやって来たこのオレも、することが無いの。そこの社員じゃなくて自分は派遣されてきて、知ってる人が一人しかいなくて、自分もなんの目的でここに来たか分からないの。だから、オレもその仕事干された人とあまり変わらず、それでもまだなんとなく仕事してるフリをしていて、そこの社員の人に愛想笑いしたりあいづち打ったりはしているけど、身の置きどころが無いの。
実は、そういう夢を自分は定期的に見る。自分がまわりにまったく必要とされていない人になる夢。人知れず自分も恐れているんだろうね。そして、そういう人がこの社会にいったいどれだけの数いるだろうって思う。おそらく膨大な数じゃなかろうか。そんな中、宗教にすがる人の気持ちもわかるってもんだ。
ところで、その夢の最後は、全社員あげての部屋の模様替えで、最後に作業が終わったら、全員が部屋の片側に立ってその出来栄えを無言でながめている光景だったのだけど、それは、オフィスの中にきれいにできあがった巨大な仏壇だった。