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誤訳

ロバート・ジョンソンの和訳は僕も出しているんだけど、かつてロバートの日本版のCDが出たとき、そこに対訳が載っていて、そこに誤訳がいくつかあった。中でも痛恨の誤訳が、They’re Red Hotというホーカムソングの中で繰り返し出てくるセリフの

Hot tamales and they red hot yes, she got ‘em for sale
(ホットなタマーレ 真っ赤で辛い それが彼女の売りもので)

で、この「熱いタマーレ」を「熱いトマト」にしてしまった。しかし対訳した三井さんもロバートの英語を自分でヒアリングしたんだろうか、すごい苦労。それはともかく、その誤訳を取り上げて当時の評論家の日暮さんが、タマーレはメキシコの大衆食で、当時貧しい黒人社会ではこのタマーレがよく食されていたのは常識で、そんなことすら知らずに、こともあろうかそれをトマトとして対訳を発表してしまうなんてのいうのは大変恥ずかしいことだ、とかとか味噌糞に書いてた。

読んでて、そんなに味噌糞に言わなくていいのに、って思ったけど、あの頃の黒人音楽関係の人たちって、そういう人、多かった。ちょっとしたことで大論争になって罵り合い。

それで思い出したけど、だいぶ昔、Mixiのコミュニティで、僕より年上の北海道在住のプロのギタリストとネット上で知り合いになって、楽しく会話していたのだけど、僕があるとき、たしか、Me And Bobby McGeeの和訳をネットに上げたことがあった。そしたら、その中に誤訳があった。

ちょっとどの言葉か忘れたけれど、アメリカのスラングに近いイディオムを僕が知らなくて、直訳してしまったのである。これ、非ネイティブによくあるミスなのだけど、そのギタリストの人はアメリカで生活したことがある人で、その誤訳を指摘した後、あなたのようにアメリカ語を知らずに和訳するのは大変恥ずかしいことで、日本人というのはこれだからいつまでたっても文化の正しい理解ができないんです、みたいに言われた。

僕は、ふつうにご指摘ありがとうございます、と書いて誤訳部分を修正したけど、それ以来、その人と完全に疎遠になってしまった。

オレさあ、その人の「恥ずかしい」っていう気持ち、よく分かるんだよね。今の時代では、もうそういう感覚はかなり薄れてると思うけど、それってはっきりと言ってしまうと欧米コンプレックスの裏返しなんだよね。しかもそれってコンプレックスなので、その英語の誤訳を文字で見ると、紙の上にその本人の一番恥ずかしい劣等感が晒されているように感じるんだろうと思う。それで、怒って感情的に攻撃してしまうんじゃないかなと思う。いまどきは欧米コンプレックスもだいぶ無くなったけど、昔はひどかった。

とまあ、この「コンプレックス」もほぼ誤訳なんだが(笑) 英語のComplexは複合心理で、日本語のコンプレックスは劣等感の意味になっちゃって、おかしい。しかし今はでも、もう、日本語でもコンプレックスなんて、言わないかな?